判決文

第28回模擬裁判 判決

 ◆◇判 決◇◆ 

本 籍  置賜県置賜市多摩町一丁目ー九ー一

住 所  右同所

職 業  無職

被告人  水尾敏彦     
 
昭和五四年四月三日生

右の者に対する殺人被告事件に対し、当裁判所は次の通り判決する。

主 文
被告人を無期懲役に処する。

理 由

〔犯行に至る経緯及び犯罪事実〕

(第一〜第三の犯行に至るまでの経緯)
被告人は、小学校高学年の頃から母親の過干渉・過保護にストレスを感じるようになり、中学校一年の頃からそのストレスのはけ口として、近所の猫を捕まえて殺す等の行為をとるようになった。さらに高校二年の頃に、偶然殺人マニュアルのホームページ(以下ホームページ)を見かけた。そのホームページは殺人方法が残酷な画像とともに紹介されており、殺人を奨励する内容の文章も載せられていた。被告人はホームページにのめりこむうちに、人を殺すことに興味を示すようになった。その頃からホームページの内容を元にして犯行計画書(以下計画書)の作成を順次開始した。計画書には、犯行凶器であるロープと遺体をバラバラにするために使用した両刃のこぎりを事前に準備すること、絞殺し遺体をバラバラにして山中に捨て去ること、などが事細やかに記載され計六枚作成された。被告人はホームページの影響で善悪の判断がつかなくなり、高校三年の頃から人を殺してみたいという欲望に駆られるようになったが、母親の存在がその欲望を抑える形となっていた。
平成一〇年九月一三日、被告人はホームページを見ている所を、偶然母親によって見られてしまい、激しい叱責を受けて自暴自棄になった。同年九月一五日、具体的に犯行をしようと決意し、自宅から徒歩五分にあるホームセンターゼロ多摩町店で両刃のこぎりと直径一センチ長さ二メートルのロープと軍手を購入した。同日、殺人対象を決める目的で置賜市塚田地内まで車を走らせ、偶然見かけた島中理絵(私立後楽幼稚園)を殺人対象にしようと決意し、さらに同市東原山まで車を走らせ同地を殺害・死体遺棄現場にしようと決意した。同日から同年九月十八日にかけて右島中の行動パターンを把握し、さらに右東原山を調査することによって犯行の準備に当たった。

(罪となるべき事実)
第一 同年九月二〇日午後三時三〇分頃、右塚田二丁目地内の公園において一人で遊んでいた右島中を「お母さんが呼んでいるよ」と声をかけて車に誘い込み、右東原山に連れて行き、
第二 第一記載と同日午後四時一五分頃、右東原山の山中において右島中の頸部を約一二分にわたり右ロープで締めつけた上で絞殺し、
第三 第二記載の日時場所において、右島中の死体の頸部、両肘、両膝の計五箇所を右両刃のこぎりで切断した上、同山中の草むらに遺棄したものである。


(第四〜第六の犯行に至るまでの経緯)
被告人は同年一〇月下旬、自ら犯した第一〜第三の犯行で捕まらないことを実感し、再び人を殺してみたい欲求に駆られるようになった。そこで同年一一月一四日、殺人対象を決める目的で最上市まで車を走らせ、偶然見かけた内堀奈津実(最上市立赤坂小学校二年)を殺人対象にしようと決意し、さらに同市舟形山まで車を走らせ同地を殺害・死体遺棄現場にしようと決意した。同日から同年一一月一六日にかけて右内堀の行動パターンを把握し、さらに右舟形山を調査することによって犯行の準備に当たった。

(罪となるべき事実)
第四 同年一一月一七日午後三時頃、同市赤坂地内の路上において一人で歩いていた右内堀を「道がわからなくなったから、知っている道のところまで乗って教えてくれない」と声をかけて車に誘いこみ、右舟形山に連れて行き、
第五 第四記載と同日午後三時三〇分頃、右舟形山の山中において約一〇分間右内堀の顔面・腹部・後頭部を殴打し、さらに右内堀の頸部を約一〇分間にわたり右ロープで締めつけた上で絞殺し、
第六 第五記載の日時場所において、右内堀の死体の頸部、両肘、両膝の計五箇所を右両刃のこぎりで切断した上、同山中の草むらに遺棄したものである。


(第七〜第九の犯行に至るまでの経緯)
被告人は、同年一一月下旬に再び人を殺してみたい欲求に駆られるようになった。そこで同年一二月四日、殺人対象を決める目的で最上市まで車を走らせ、偶然見かけた林磨紀(最上市立虎ノ門小学校一年)を殺人対象にしようと決意し、さらに同市大蔵山まで車を走らせ同地を殺害・死体遺棄現場にしようと決意した。同日から同年一二月六日にかけて右林の行動パターンを把握し、さらに右大蔵山を調査することによって犯行の準備に当たった。また、同年一二月六日、置賜市中山地内の太平金物店で死体切断のための両刃のこぎりを購入した。

(罪となるべき事実)
第七 同年一二月七日午後二時頃、最上市虎ノ門四丁目の路上において一人で歩いていた右林を「写真を撮ってあげる」と声をかけて車に誘いこみ、右大蔵山に連れて行き、
第八 第七記載と同日午後三時頃、右舟形山の山中において約一〇分間右林の顔面・腹部・後頭部を殴打し、さらに右林の頸部を約一〇分にわたり右ロープで締めつけた上で絞殺し、
第九 第八記載の日時場所において、右林の死体の写真を、自宅から持ち出したデジタルカメラで撮影した上、頸部、両肘、両膝の計五箇所を右両刃のこぎりで切断した上、同山中の草むらに遺棄したものである。


(第一〇〜第一一の犯行に至るまでの経緯)
被告人は、第七〜第九の犯行を終えた直後から人を殺してみたい欲求に歯止めがきかない状況に陥っていた。そこで同年一二月一二日、殺人対象を決める目的で置賜市二番町まで車を走らせ、偶然見かけた下原里香(置賜市立二番町小学校一年)を殺人対象にしようと決意し、さらに同市あこや山まで車を走らせ同地を殺害・死体遺棄現場にしようと決意した。同日から同年一二月一四日にかけて右下原の行動パターンを把握し、さらにあこや山を調査することによって犯行の準備に当たった。

(罪となるべき事実)
第一〇 同年一二月一五日午後三時頃、同市二番町一丁目の路上において一人で歩いていた右林を「道がわからなくなったから、知っている道のところまで乗って教えてくれない」と声をかけて車に誘いこもうとしたが断られたため、無理やり車のトランクに入れて同市あこや山に連れて行き、
第一一 第一〇記載の日時、右あこや山の山中において右下原の首を殺意をもって手で締めていたところ、不審者がいるとの通報を受け現場に急行した置賜署のパトカーのサイレン音に気づき、右下原を残した上で逃走したためにその目的を遂げられなかったものである。


〔証拠標目〕
 甲号証
 乙号証
 証人岩田雄大及び同水尾碩子の各公判供述
 岩田雄大の精神鑑定書
〔法令の適用〕
 罰条       未成年者誘拐、略取の点  刑法二二四条
           殺人の点               同法一九九条
           死体損壊、遺棄の点      同法一九〇条
           殺人未遂の点           同法二〇三条、一九九条
           科刑上一罪の処理       同法五四条一項前段、一〇条
 刑種の選択   懲役刑
 訴訟費用の非負担     刑事訴訟法一八一条一項但書


〔弁護人の主張に対する判断〕
本件犯行当時の被告人の責任能力について、弁護人らは、被告人は強度の人格障害であり、本件犯行当時、是非善悪を弁識しその弁識に従って行動する能力が減退しており、従って完全なる責任能力を認めることは困難であったとの旨を主張するので、検討する。
当公判において、置賜大学付属病院精神科医岩田雄大による精神鑑定(以下「岩田鑑定」)が行われた。岩田鑑定においては、被告人は、情性欠如型の人格障害であること、知能は標準値よりもやや高いこと、また、精神病的症状や意識障害もないこと等が述べられている。従って、犯行時も被告人は人格障害の影響により、行為の重大性を深く理解しないまま短絡的にも自己の欲求に従ってしまったのだとしている。
被告人の人格障害については、診断結果、本人や関係者の供述、本人の生育環境、犯行態様から考察すれば、岩田鑑定人の主張を認めることができる。被告人は、母親以外の他人と積極的な関わりあいを求めず、自己中心的であり人の心に共感するという能力を欠いていて、加えて猟奇的なホームページの影響から、歪んだ願望を持ち、母親の叱責をきっかけについに願望を実行に移したものである。
岩田鑑定によれば、被告人は精神的に未熟であり、人格障害から犯行当時に是非分別能力・行動制御能力が劣っていたと主張している。しかしながら、被告人の犯行は猟奇的なホームページに掲載されていた殺人方法を模倣したとはいえ、例えば捜査の目をかいくぐるために犯行と犯行の間に一定期間をあけたり、犯行の場所を置賜市から最上市へと順次変えたりするなど、用意周到かつ冷静に自ら思考を重ねた上で犯行に及んでいることも伺える。また、逮捕後の被告人は、軽い拘禁反応は見られるとしても捜査官の取調べや医師の診断にも素直に応じていることから、被告人の人格障害はそれほど重度のものではなく、犯行当時多少の影響はあったものの、自己の行為の意味を認識し抑制する事は十分に可能であったものと解すべきである。
従って、被告人は人格障害者であり精神的に未熟であるとの岩田鑑定人の説は採用するが、これが責任能力に著しく影響を与えるものであったという点については採用し得ない。よって、被告人は犯行当時心神耗弱の状態にあったとは認定しえず、責任能力はあったものと判断するのが相当である。
〔量刑の理由〕
本件は、当時一九歳であった被告人が女児を連続して殺害しその死体を切断・遺棄したという、社会に極めて大きな驚きと反響をもたらした事案である。その犯行に至る経過及び犯行の内容はすでに判示した通りであるが、なお量刑にあたって考慮すべき事情について検討する。
まず、本件各犯行の動機については、本人の供述、犯行の態様、岩田鑑定から、単に「人を殺してみたかった」という極めて自己中心的・短絡的なものであったことが認められる。犯行態様や本人の供述から伺えるように、猟奇的なホームページの影響もあってそのような願望をもつに至ったとはいえ、斟酌すべき点は見受けられない。
次に犯行の態様については、容易に反抗を抑圧できるという単純な理由から、何の罪もない幼い被害者らに狙いを定め、「お母さんが呼んでいるよ」や「道がわからなくなったから教えてくれない」といった、警戒心をとかせ親切につけこむような言葉でもって巧みに車に誘い込み、山中にて絞殺もしくは執拗に暴行を加えたうえで殺害し、その死体を切断し遺棄するという、冷酷かつ残虐極まりないものである。死体の遺棄方法については山林の草むらに放置するという杜撰で容易に発見されうるものであり、実際に犯行の数日後に発見されながらも同様の方法を繰り返していることから、思慮の足りぬ幼稚な面も見受けられる。しかしながら、前述のホームページを模倣した部分も大きいとはいえ、犯行と犯行の間に一定期間をあけたり犯行現場を順次変えたりするなど、捜査撹乱を狙ったかのような行動もとっていることから、犯行は用意周到・計画的なものであったと十分に評価しうるものである。
本件犯行のもたらした被害については、まだ幼い三人の尊い生命を残忍な方法で奪い去り、また殺人未遂に終わった被害者についても心身ともに深い傷を負わせており、結果の重大性については特に重視されるべき事由である。
また、被害者の親族らが受けた衝撃も、相当深刻なものである。突然幼い肉親が行方不明となり、必死の捜索にもかかわらず変わりはてた無残な姿で見つかった旨を知らされた親族らの、哀しみ、怒り、無念さは筆舌に尽くしがたいものがある。加えて、数ヶ月もの間に渡り周辺地域を恐怖に陥れたという意味で、社会的影響も計り知れない。これらの事由を考慮すれば、極刑による処断もやむを得ないと言わざるをえない。
反面、斟酌すべき情状の点については、まず、被告人の成育環境に着目すべきである。生育環境が原因で被告人に人格障害が形成された点については前述した通りであり、情状の面でも十分考慮しなければならない。被告人は父親の無関心と母親の過干渉により常に精神的抑圧を抱え、ふとしたことをきっかけに犯行に走る危険性を秘めていたといえる。
年齢については、被告人は犯行当時一九歳であり、一般人であれば相当程度精神的に成熟していて十分な判断能力が備わっているべき年齢であったが、母親と自我が未分化であり精神的に未成熟であったことから、一八歳未満の少年法でいう年少・年中少年と同視しうべき状況にあったといえる。犯行態様からも、被告人は短絡的に犯行に及んだと認められることから、思慮の足りぬ未熟な少年による犯罪であると評価できる。
最後に、少年法と本件の関係について触れておくと、少年法五一条前段では、犯行時一八歳未満の者に対する死刑可能性を否定しているが、同条の規定は少年法の精神を具象化したものといえ、同条の精神は二〇歳未満の者に対しても尊重されるべきであるといえる。本件では被告人はいずれの犯行時も一九歳であったので、直接同条の規定が適用されることはないものの、右のような考え方からすると、同条の精神は被告人に対しても当然生かされるべきであるといえる。加えて、被告人の場合には、一般の一九歳よりも精神的に未熟であり一八歳未満の者と同視しうべき状況にあったこと、本件犯行には被告人の成育環境が影響しており、被告人本人の責に帰すべきところが小さいこと等、諸般の事情を勘案すると、実質的には一八歳未満の者と同様に扱うことが相当であると考える。
以上のことを総合的に考慮し判断するならば、被告人には、人格障害の治療に当たらせる一方、自らの手で幼い命を奪ったという事実を厳粛に受け止めさせ、その終生をかけて反省と悔悟、弔いの日々を送らせて被害者の冥福を祈らせるのが相当であると考える。
従って、当裁判所は被告人を無期懲役に処すのが相当と判断した。
よって、主文の通り判決する。 

     平成十二年一一月三〇日(一二月一日)
     置賜地方裁判所 刑事部 裁判長裁判官  風樹岳雄
                                 裁判官   結城忍
                                  裁判官   有栖川華子


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