判決文

第33回模擬裁判 判決

平成16年(ワ)第537号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成17年11月15日

判          決


置賜県置賜市最上町3丁目5番24メゾン置賜305号 
   原       告   美 上  茜
   同訴訟代理人弁護士   長 谷 恭 子
               山 本 康 裕

置賜県置賜市八馬町2丁目3番15号
   被       告   川 村 光 治
   同訴訟代理人弁護士   九 条 俊 樹
主          文
 被告は、原告に対し33万円及びこれに対する平成15年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 訴訟費用は、これを20分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

 この判決第1項は、仮に執行することができる。
事  実  及  び  理  由
第1 請求
 被告は、原告に対し金830万円及びこれに対する平成15年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、置賜大学の学生の原告が、担当教授である被告からセクシャル・ハラスメント(以下「セクハラ」という。)を受けたなどとして川村光治について当該セクハラ行為等を不法行為として830万円の損害賠償を求めている事案である。
第3 前提事実

1 当事者
(1) 原告は平成12年4月から置賜大学薬学部に在籍し、平成15年4月から被告のゼミナールに所属していたものである。
(2) 被告は、平成14年4月から置賜大学の教授となり、同年4月から被告のゼミナールを開講していたものである。

2 原告が被告のゼミを受講するまでの経緯
原告は平成15年1月、指導教官の希望を被告として届出をし、合格となった。

3 原告が被告の本件ゼミを受講していた際の経緯(原告は、この間にセクハラがあったと主張する。)

(1) 平成15年7月30日、被告のゼミの飲み会において、被告は、原告に対して「僕を誘ってるんだろう?」等の発言をし、その後、肩揉みをしようとして断られた。そして、原告は持っていたお酒を自身の太ももにこぼし、被告は原告の太ももをおしぼりで拭いた。
(2) 平成15年8月30日、原告が被告の研究室に卒業論文の相談に行き、相談が終わった後、原告は被告に食事に誘われ、2人で食事に行った。食事の後、被告はタクシーで原告の家の近くまで送り、そのとき雨が降っていたので被告は傘をさして原告を家の前まで送り届けた。
(3) 平成15年9月15日、この日は原告の誕生日であったが、被告はプレゼントとして時計と手紙を原告に送った。翌日、原告は被告の研究室に時計を返しに行った。

4 原告が被告によるセクハラを訴えた経緯
   原告は平成15年9月16日以降大学にほとんど行かなくなり、卒業論文を書くこともできず、卒業できなかった。そして、平成16年1月に置賜大学の留年が決まり、薬剤師の国家試験も受けられず就職もできなくなった。原告は同年4月から置賜大学を休学しているが、同年10月28日に訴えを置賜地方裁判所に起こした。
第4 争点及び当事者の主張

争点は、
@被告が原告に対し、セクハラ行為等の不法行為をしたか
A被告の原告に対する民事上の損害賠償責任の有無
B被告が負うべき損害賠償額
である。

1 争点@(被告のセクハラ行為等の有無)
(1) 原告の主張
 ア 原告は、平成15年4月から被告の担当する本件ゼミを受講していたところ、被告から以下のとおりの行為を受けたものであり、これらの被告の行為は原告に対するセクハラであって、原告の性的自由及び良好な環境の下で研究、学習する権利を侵害するものであり、不法行為に当たる。
(ア) 平成15年7月30日の件
 原告は、同日の被告のゼミの飲み会において、被告に「僕を誘ってるんだろう?」等の不快な発言をされ、その後、「勉強しすぎて肩こってるだろ?」などと言われ、肩を揉まれそうになった。さらに、原告は被告にわき腹をくすぐられ、持っていたお酒を自分の太ももにこぼしてしまい、自分で拭こうとするが被告が「いいから、いいから〜。」と言いながら、おしぼりを奪い無理やり太ももを拭いた。
(イ) 平成15年8月30日の件
 原告が、同日に卒業論文の相談のために被告の研究室に行き相談を終えた後、被告に食事に誘われ、それを断ると被告は「前期の僕の試験、散々だったな。卒業がかかっている試験なのにな。仕方ないから、点数上乗せして可にしておくよ。」と言い、「このままじゃ卒論も心配になってきたな。これから食事に行って、そこで今後の事について話そうじゃないか?このあと、空いてるだろ?」ともう一度誘われたので、原告は断ることができなかった。食事の後、被告はタクシーで原告を家まで送ったが、被告は「折角だから、君の家でもうちょっと今後の事について話し合おうか。」と言って原告の家に無理やり上がりこもうとした。
(ウ) 平成15年9月15日
 同日は原告の誕生日であり、被告は原告に50万円相当の時計と手紙を誕生日プレゼントとして送った。原告は翌日にその時計を被告の研究室に返しに行ったが、研究室内で被告に抱きつかれ、キスをされた。さらに、「ちゃんと卒業したかったら、このことは言わないほうが身のためだぞ。」と強迫した。 
(エ)以上のような被告の行為がもとで、原告は置賜大学を卒業できず、留年が決まり、就職の話もなくなり、さらには、置賜大学を休学するまで追い込まれており、このような被告の行為はセクハラとして不法行為に当たることは明らかである。
(2)被告の主張
 被告はセクハラに当たるような行為はしていない。
(ア) 平成15年7月30日の件
 被告は学生に対して普段からコミュニケーションとして冗談を言ったり、抱きつくなどの行為をしていた。学生も被告に理解を示しており、原告が不快であったと主張する被告の発言も、原告の肩を揉もうとしたこともごく自然の行為である。また、被告が原告をくすぐったのも偶然手が当たってしまっただけであり、太ももを拭いたのも原告がお酒をこぼしたことに非常に動揺していたためで、被告の行為はいたって常識的であり、セクハラとは言えるものではない。
(イ) 平成15年8月30日の件
 同日、原告が被告の研究室に卒業論文の相談に来て、相談後に2人で食事に行ったこと、食事の後に原告をタクシーで家まで送り届けたことは事実であるが、単位認定を持ち出して食事に誘ったことも、原告の家に無理やり上がりこもうとしたこともない。
(ウ) 平成15年9月15日  同日、被告が原告に対しプレゼントとして時計と手紙を送ったのは被告の原告に対する好意であり、翌日に原告が被告の研究室に時計を返しに来たときも被告が時計を受け取っただけであり、原告に抱きつき、キスをして、さらに強迫したということはない。
(エ)当時、被告は原告に対し好意を持っており、被告の普段の行動を考慮しても原告にセクハラ行為をしたことをうかがわせる点はない。被告のセクハラ行為があったとする原告の供述、その他関係者の供述には立証もなく、信用性がない。
 また、原告が被告の実際には存在しないセクハラ行為について訴えるに至ったのは、置賜大学を卒業できず、就職の話がなくなってしまったことへの単なる腹いせでしかなく、理不尽なものであり、今回、被告の存在しないセクハラ行為が取りざたされるに至ってしまったものにすぎない。

2 争点A(被告の責任の有無)
(1) 被告の行為は、セクハラ、プライバシー侵害等として不法行為に当たることは明らかであり、このような行為は教員がその職務上行ったものとは到底評価され得ず、被告が民事上の損害賠償責任を負わないとされることはない。よって、被告は原告に対して民法709条に基づき不法行為責任を負う。
(2)被告は、原告の主張するようなセクハラ等を行ったことはないので、被告は原告に対して民事上の損害賠償責任を負わない。

3 争点B(損害賠償額)
(1)原告の主張 
 原告が、被告のセクハラ行為等によって被った損害は、以下のとおりであり、合計830万円を請求する。
ア 経済的損害
  次のとおり合計金365万円を請求する。
(ア)被告のセクハラ行為によって置賜大学を留年したことで発生した授業料、教材費等
                                   65万円
(イ) 被告のセクハラ行為がなかった場合、原告が就職し得るはずであった収入
                                  300万円 
 イ 慰謝料                            300万円
 ウ 弁護士費用                          165万円
(2)被告の主張 
 争う。殊に原告主張のうち、原告に対しての被告の行為はセクハラではなく、被告の行為等により置賜大学を留年し、就職できなかったこととは全く因果関係がなく、立証もない。
第5 当裁判所の判断 
1 争点@(被告のセクハラ行為等の有無)
(1)
 前提事実に、証拠(甲1、2、証人A、B、C、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認定することができる。(証人A[荒井]、証人B[宮野]、証人C[郷])
(ア)被告は、平成15年7月30日の被告ゼミの飲み会において、原告に対して「僕を誘ってるんだろう?」という発言をし、その後、「今日は特別サービスで僕が疲れを癒してあげよう!勉強しすぎて肩こってるだろ?」と言って、肩を揉もうとした。
(イ)同日、原告は自身の太ももにお酒をこぼしてしまい、被告は原告の太ももをおしぼりで拭いた。
(ウ)原告は、平成15年8月30日に卒業論文の相談のために被告の研究室に行った。
(エ)同日、原告は相談が終わった後、被告に食事に誘われ、原告はそれを承諾して2人で食事に行った。
(オ)同日、食事の後、被告は原告を家の近くまでタクシーで送り、そのとき雨が降っており被告は原告の家の前まで傘をさして送り届けた。
(カ)被告は、平成15年9月15日に50万円の時計と被告直筆の手紙を原告に送った。
(キ)平成15年9月16日に、原告は被告から送られた時計を返すために被告の研究室に行き、被告はその時計を受け取った。
(ア)被告は、平成15年7月30日のゼミの飲み会における原告に対する発言、肩揉みをしようとしたことはセクハラではないと主張している。しかし、原告は実際に不快に感じており、被告は普段から他の学生にもコミュニケーションとして冗談を言う、抱きつくなどの行為をし、他の学生が被告の行為に理解を示していることは、被告の行為がセクハラではないことの理由にはならないので、被告の行為はセクハラであるといえる
(イ)同日において、被告にわき腹をくすぐられたために原告がお酒を自身の太ももにこぼし、自分で拭こうとしたにもかかわらず、被告が無理やり太ももを拭いたことはセクハラであると原告は主張しているが、被告がくすぐったところを目撃していた人はおらず、証人Aの証言では信用性もなく立証がされない。しかし、お酒をこぼした際、原告が動揺していたとはいえ、太ももを拭いたことは適切な行為ではなく、原告は不快に感じており、被告の日頃からの心がけや配慮が足りなかったものと考えられるので、被告が原告の太ももを拭いた行為はセクハラであるといえる
(ウ)原告は、平成15年8月30日に被告に単位認定を持ち出されて食事に誘われ、その後、家に無理やり上がり込まれそうになったことがセクハラであると主張しているが、原告は普段から被告に対して明確な意思を示すことがなく、常に曖昧な態度をとっていた。そして、食事に誘われた際に単位認定の話を持ち出されたことには証拠、目撃者がなく、原告が被告の誘いを断われなかった状況でもなく、原告が自分の意思をはっきりと示さなかっただけである。食事の後、家に上がりこまれそうなった際にも、証拠、目撃者はなく、証人Aの証言では信用性を認めるに足らず、事実が立証できないので、被告の行為はセクハラであるとはいえない
(エ)平成15年9月15日に被告が高価な時計と手紙を誕生日プレゼントとして原告に送ったことはセクハラではなく、当時、被告は原告に対して好意を持っており、プレゼントを送ったことには悪意は無く原告への愛情表現であったと被告は主張している。しかし、好意を持っていたとしても教員と学生という関係において、被告がプレゼントを送ったことは認容し難い行為であり、原告に対して好意を持っていたことはセクハラでないという理由にはならないので、被告の行為はセクハラであるといえる
(オ)原告は、平成15年9月16日に被告の研究室に時計を返しに行った際、被告に抱きつかれ、キスをされたうえ卒業をたてに強迫されたことがセクハラであると主張している。しかし、それにおける証拠、目撃者もなく、原告の性格と当時の状況、証人Aの証言を考慮しても、助けを求める、大声を出すことなどができたと考えられ、信用性がなく、原告が主張している被告の行為を立証することはできないので、被告の行為はセクハラであるとはいえない
(2)以上によれば、被告が原告に対して前記ア(ア)から(キ)の行為が行われたことは事実であり、そのうち、飲み会での発言、肩揉みをしようとしたこと、プレゼントを送ったことについては原告の人格権、良好な環境の下で研究、学習する権利を侵害するものであり、不法行為に当たるといえる
2 争点A(被告の責任の有無)
被告の原告に対する行為のうち、一部の行為は不法行為に当たる。したがって、被告は原告に対し、本件行為の一部について、民法709条に基づいた不法行為責任を負う
3 争点B(損害賠償額)
(1)原告は経済的損害として、被告の行為が原因で置賜大学を留年したことによる授業料、教材費等65万円、被告が就職して得るはずであった収入300万円を主張しているが、原告が置賜大学を留年し、就職できなかったことと被告の行為との関連性を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張を認めることはできない
(2)原告は被告の行為が原因で精神的苦痛を被った慰謝料として300万円を要すると主張しているが、セクハラと認定された行為を考慮して判断すると原告が被った精神的苦痛については30万円が相当であるといえる。
(3)本件における弁護士費用相当損害金は、不法行為を認定した損害額の10%である3万円を不法行為と相当因果関係にあるとして認める
 よって、原告の請求は、被告に対し、33万円及び平成15年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、同被告に対するその余の請求については理由がないので、主文のとおり判決する。
 置 賜 地 方 裁 判 所 民 事 部

 裁 判 長 裁 判 官     古 都 敬 士

                    裁 判 官   藤 岡 達 弥
                    裁 判 官   橘   小 百 合
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