判決文

第34回模擬裁判 判決

    
平成21年(わ)第2514号

判    決

  本 籍  花笠県花笠市中野三丁目10番7号
  住 所  同上
  職 業  無職

酒 井 知 紀
平成元年5月23日生

上記の者に対する殺人、死体遺棄事件について、
当裁判所は、検察官蒼井聡一郎出席の上審理し、次のとおり判決する。


主 文

被告人を無期懲役に処する。


理 由

( 被告人の経歴 )
  被告人酒井知紀は、父酒井正彦、母酒井節子の長男として山寺県花笠市に出生した。父正彦は、市内5店舗を有する飲食店チェーンを経営しており、真面目に働く両親のもとで被告人は何不自由なく成長した。人並み以上の苦労と努力をして一代で店の経営を軌道に乗せてきた両親、特に父正彦は、被告人に対して自己の考えを押し付けるところが多々あり、被告人は、少年期から両親に対して反発の念を募らせていた。
  地元の名門私立中学・高校に進学した後は、非行に走ることもなく、真面目な学校生活を送っていたが、大学受験に失敗し、高校卒業後は地元の進学予備校に入学するも、挫折感から勉学に意欲を喪失し退学する。その後は、自己の将来に対する明確な目的を有した進路を見つけることもなく、アルバイト先を転々とすると共に、そのころから、素行の悪い友人とも交わるようになった。平成20年10月1日から山寺県花笠市瓦町一丁目28番地のガソリンスタンドで従業員として働くようになった。

( 犯行に至る経緯 )
  被告人は、進学予備校に通っていた頃、友人である沢村隼の紹介で特殊浴場の接客婦とは知らずに櫻井菜穂子と知りあい、交際するようになった。同女の職業を知った後も変わることなく親しく交際し続け、平成20年12月1日頃から同女と生活を共にするようになり、さらに同女が被告人の子を妊娠していることが分かると結婚を決意するに至り、同女に特殊浴場の接客婦を退職させた。
  他方、被告人と同女が生活を共にしはじめたことから二人の交際を知った被告人の両親は、被告人の知らないところで同女の身辺調査を行い、同女が特殊浴場で接客婦をしていたことを理由に、同女及びその父親に被告人の子供を堕ろし、被告人と別れる様、それぞれに現金3,000,000万円を渡そうとした。同女はそれを拒否し、金銭を受け取らなかったが、同女の父親は金銭を受け取り、同女と被告人を別れさせることを被告人の両親と約束した。しかし、同女の父親は借金の返済に充てるために金銭を受け取っただけで、何ら同女に働きかけようとしなかった。
  平成21年8月5日午後8時頃、被告人は同女との結婚を決意し、そのこと、及び同女が被告人の子供を妊娠していることを両親に報告するために両親方に赴いた。しかし、逆に、上記の金銭授受の事実を知ることとなり、そのことで父親と言い争いになった。

( 罪となるべき事実 )
  平成21年8月5日午後9時30分頃、父親方一階の居間において、被告人と父正彦との言い争いは激しいものとなり、
 第1  前期日時場所において、同女への謝罪と結婚を認めるよう要求した被告人に対して父正彦が発した「あんなあばずれ女のどこがいいんだ。お前はだまされている。所詮あの性悪女のいい金づるに過ぎないんだよ。」との発言に、被告人は激昂して、居間に飾ってあった父正彦のコレクションである登山用ナイフ(刃体の長さ約15センチメートル)を1本手にし、殺意を持って父正彦の頭部、胸部、上腹部等を同登山用ナイフで約11回に渡り突き刺し、心臓損傷等に基づく失血により殺害した。
 第2  さらに、被告人は、前期日時場所において、その場に来た母節子を同様に殺意を持って約10回に渡り突き刺し、心臓損傷等に基づく失血により殺害した。
 第3  被告人は同日午後10時頃、同宅の地下において、死体を隠滅するため、両親の遺体をナイロン製のシートで包んで同宅の地下にあるセラーに隠し遺棄したものである。

( 証拠の標目 ) 省略

( 法令の適用 )
  被告人の判示第1の所為、及び判示第2の所為は刑法199条に、判示第3の所為は同190条にそれぞれ該当するところ、以上は同法45条前段の併合罪であることから、刑及び犯情の最も重い判示第2の罪について無期懲役に処し、同法46条2項により他の刑を科さないこととする。訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

( 量刑の理由 )

1.本件は、特殊浴場の接客婦であった女性と親密に交際し、同女が妊娠したことをきっかけに同女との結婚を考えた被告人がそのことを両親に報告に行った際、両親が被告人の知らないところで同女について調査し、その結果を踏まえて同女を非難し同女との交際及び結婚を反対されたことに憤激し、父親を登山用ナイフで多数回突き刺して殺害し、さらにその場に来合わせた母親を同様に右ナイフで多数回突き刺して殺害した上、自己の犯行を隠蔽するために各々死体をシートで包み、両親宅の地下にあるセラーに両親の遺体を遺棄したという殺人及び死体遺棄の事案である。

2.まず、本件犯行の態様は上記の通り、慈愛を持って養育してきた実父母を被告人が、父親には約11箇所、母親には約10箇所の刺創ないし刺切創を与えて無残にも殺害し、両親の遺体を遺棄したもので、極めて残虐な手段方法による殺害、死体遺棄事案であると断ぜざるをえない。さらに、犯行の発覚を恐れて父親経営の会社従業員に父親の携帯電話から「海外にワインの買い付けに行くからしばらく留守にする。会社のことは頼んだ」という内容の偽造メールを送り、両親の霊に対する自責の念も示さず、約一ヶ月間平然と同女と生活を共にし、被告人の姉が突然ワインの買い付けに行った両親を心配し被告人に相談をしても平然としていたことは、被告人の身勝手さの露呈というほかない。命を奪われた父母の恐怖感や絶望感、そして、命を落とした無念さは筆舌に尽くしがたいものといえる。、一瞬にして両親を奪われた姉の感情は複雑であり、同女に与えた精神的、物質的苦痛も生涯拭いきれないものである。してみれば、本件による被害者及びその遺族、さらには会社の従業員に与えた影響は、深刻、かつ、重大である。また、前にみる非道な犯行によって両親を殺害し、約一ヶ月もの間その死体を遺棄した本件犯行が社会に与えた衝撃は大きいといわねばならない。

3.しかしながら、被告人が本件犯行に至った経緯として、互いに誠実な愛情を持って真剣に交際をし、その交際をしていた女性が被告人の子供を妊娠したことで結婚を決意した被告人が両親にその報告に行った際、同女のことをまだ何も知らないはずの両親が実際は同女の身辺を調査し、同女が特殊浴場の接客婦であったため結婚に絶対反対し、同女とその家族にまで金員を渡して同女の子供を堕胎させ、別れさせようとしていた事実を知り、両親がそのような手段を使ってまで、自分と同女を別れさせようとしていたことに対して、怒りがこみ上げてきて父親と言い争いになったということが認められ、それでもなお被告人は両親から結婚の許しを得ようと懸命に話し合いに臨んでいたが、父親との言い争いはさらに激しいものとなり、ついに同女に対して父親が「あんなあばずれ女のどこがいいんだ。お前はだまされている。所詮あの性悪女のいい金づるに過ぎないんだよ。」と発したことで、逆上して我を抑えられなくなり、従前の両親に対する鬱積した不満も加わり、両親に対する殺意が芽生え、父親を殺害し、その場に来合わせた母をも殺害したものであり、いずれも計画性がなく偶発的犯行である。もっとも、本件犯行はその背景として、被告人と被告人の両親との間に長年に亘り埋められない溝があったことを無視することはできない。これについては、誠実と勤勉によって財を成し、仕事を軌道に乗せてきた両親の生活倫理観を被告人に押し付けた嫌いはあるにしても、それは苦しい時代を生きてきた者が一般にもつ感情であって、子の将来を慮って厳しい態度に出ざるを得なかった両親を非難すべきではない。

4.本件の犯行態様は、上記のような動機からすると異常というべく、息子である被告人が、実父母に対し、登山用ナイフでその胸腹部や頭部を滅多突きにし、父親には約11箇所、母親には約10箇所に及ぶ刺創を与え、さらに証拠を隠滅するため、両親の死体を遺棄し、従業員に偽造メールを送ったものであり、冷酷非情といわざるをえない。その一方、殺害にはその場に飾ってあった登山用ナイフを用い、死体を遺棄する際は両親宅にあったシートを使用しており、被告人が事前に計画を立てて本件を敢行したのではなく咄嗟の犯行であったと認められる。また、被告人は本件犯行当時20歳の青年ではあるが、生活面では厳しく育てられる一方、特に経済的な面で両親に必要以上に甘やかされて育てられたため、社会的経験に乏しく情緒も十分安定していない時期にあったこと、両親の世代と被告人の世代とではその生活感情において隔絶があったこと、素行に問題があったとはいえ前科前歴がないこと、公判における被告人の供述の態様は、罪を悔い、両親と姉に対して真に反省しており更生の余地があるとうかがわれること、被告人の帰りを待ち望む女性とその子どももいること等、被告人のために酌むべき情状も認められる。

  以上のような本件犯行の罪質、動機、態様、結果、遺族の被害者感情、社会的影響等に照らすと被告人の刑事責任は極めて重大であるが、被告人のために酌むべき事情も考慮すると、被告人を死刑に処することは酷に過ぎ、無期懲役に処するのが相当であると判断した。


平成21年11月17・18日
花笠地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官  小林理一
     裁判官  芳賀憲造
     裁判官  橘佳乃

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