判決文

第38回模擬裁判 判決

    
平成22年(わ)第213号

判    決

  本 籍  山形県花笠市松尾2丁目5番3号
  住 所  山形県花笠市松尾2丁目5番3号
  職 業  無職

喜 多 川 陽 一
昭和15年5月6日生

上記の者に対する殺人被告事件について、
当裁判所は、検察官内田幸雄並びに国選弁護人伊藤敏子出席の上審理し、次のとおり判決する。


主 文

被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
この判決が確定した日から5年間その執行を猶予する。


理 由

( 犯罪事実 )
 被告人は平成22年7月21日午前4時ごろ、山形県花笠市松尾2丁目5番3号所在の被告人方1階6畳寝室において、ベッドで眠っていた妻である喜多川ゑつ子(当時70歳)に対し、殺意をもって、その頚部を両手で絞め、よって、そのころ、同所において、同人を頚部圧迫による窒息死により死亡させて殺害したものである。

( 証拠の標目 ) 省略

( 法令の適用 ) 省略

( 量刑の理由 )

1.  本件は、被告人が、妻の介護の行末を悲観し、自宅において妻の首を両手で絞めて殺害したという殺人1件の事案である。

2.
(1)
  被害者は、平成18年ころ自宅で転倒して足を骨折し、それ以後、徐々に足の自由がきかなくなり、いわゆる寝たきりの状態になり、平成19年ころからは認知症も発症して、そのころ要介護認定の申請により要介護4の認定を受けた。被告人は、元々自身の手で被害者を介護することを決意していたことから、被害者に認知症が発症するまでは自宅において一人で被害者を介護していたが、その後は被害者自身も高齢で、介護の負担が大きくなってきたこともあり、上記の認定により介護保険を利用し、主にヘルパーによる訪問介護の介護サービスを用いつつ介護をするようになった。その介護の状況は、証人・千葉瞳子の公判供述から、十分に手の行き届いたものであったことが認められる。
  一方、介護サービスを利用しながらの介護ではあったものの、約4年間に渡る被害者の介護による被告人の精神的及び肉体的な負担は小さいものではなく、その負担を主な原因として事件の前日に自宅で倒れるに至った。被告人は、それまで介護の負担を全く感じなかったわけではないが、介護サービスの補助を除けば一人で介護は行えていたし、大病を患ったりしたこともなかったため、被害者の介護に対し、また自分が倒れてしまったら被害者はどうなるのか、自分が先に死んでしまったら被害者は生きていけないといった深刻なまでの不安感を抱いたことはなかったが、倒れたことをきっかけとして、そのような不安感を抱き、被害者にこれ以上辛い思いをさせたくないなどと思い詰め、殺害することを決意し、本件犯行に至った。
  犯行に至る経緯、動機には同情すべき事情があると認められる。

(2)
  一方、検察官は、被告人には自身の負担を軽減するためにデイサービスなどの施設を利用する介護サービスをもっと活用したり、施設介護に切り替えるなどの手段もあったのだから、本件犯行の動機は身勝手かつ安易なものであると主張する。
  確かに、上記のような手段を用いていれば、事態が改善した可能性はある。
  しかし、被害者に若いころから迷惑をかけ、その恩返しをするためになるべく自身の手で介護をしてあげたい、自分の目の届かないところに預けるのは不安であるといった被告人の心情は理解できる。また、被告人、被害者には子供はおらず、近くに親戚もいなかったことから近親者を頼る環境がそもそもなかったことも事実である。加えて介護保険などの介護サービスが充実してきたとはいえ、いわゆる老人ホームのような介護施設には入居待ちなどの問題がないわけではないし、ケアプランに、よりデイサービスなどの介護サービスを組み込むにしても経済的問題が全くなかったわけではない。
  そうすると、確かに被告人が、上記の手段を用いるなどして本件犯行を回避しなかったことはまことに遺憾であるが、それによってただちに本件犯行の動機を身勝手かつ安易なものとまで言うことはできない。

(3)
  犯行態様をみると、被告人は、寝たきりで抵抗できない、かつ眠っていた被害者の首を自分の手で絞め、貴重な生命を奪っていることは悪質であると言える。
  しかし、他方では、被告人は、犯行の最中に被害者に対し、「ゑつ子、すまない」と話しかけたり、犯行後、せめて安らかに眠れるようにと被害者の遺体の手を組ませたりしていて、犯行に際して、また犯行直後も被害者への謝罪の情、考慮が示されており、このような事情も考慮に入れる必要がある。

(4)
  また、本件犯行により被害者はかけがえのない生命を奪われていることから、犯行の結果はまことに重大であると言える。

(5)
  被告人は、本件犯行によって50年余り連れ添い、人生をともに歩んできた被害者を失い深く悲しんでおり、その心情には同情を禁じ得ない。

(6)
  以上によれば、本件犯行に至る経緯、動機には同情すべき点があり、他方では本件犯行結果は重大であるから、被告人の刑事責任を軽視することはできない。

3.  また、既に述べた事情に加えて、被告人には、以下の酌むべき事情がある。
    @ 犯行後、速やかに自首している。
    A 被告人は一貫して事実を認めて、反省の態度も示しており、悔悟の念も認められる。
    B 前科前歴がない。

4.  以上によれば、被告人の刑事責任を軽視することはできないが、他方では被告人のために相当に酌むべき事情があると言える。したがって、被告人を実刑に処するのは相当とは言えず、主文の刑を定め、その執行を猶予するのが相当である。

    (求刑・懲役5年)


平成22年12月10日
花笠地方裁判所刑事第二部
裁判長裁判官  青木聡一       印
     裁判官  田口治         印
     裁判官  谷岡佐紀子      印

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